蒸留所訪問~ガイアフロー静岡蒸留所へ
はじめに
昨日の山崎蒸留所に続いて今日はガイアフロー静岡蒸留所へ。豊かな森林と澄んだ空気、清らかな水のある立地にたたずむ蒸留所。こじんまりとしているが、こだわりがたくさん詰まったとても素敵なクラフト蒸留所。そんな魅力たっぷりの静岡蒸留所を見学してきた感想を記事にします。
静岡蒸留所へのアクセス方法、注意点
JR静岡駅から路線バスを利用するのが主なアクセス方法となります。
路線バスの時間は蒸留所の公式HPに参考として以下、記載があります。
・往路:「静岡駅前」12:21発 →「奥の原上」13:21着
・復路:「上助」16:15発 → 「静岡駅前」17:13着
時間帯はこれ一択になるかと思います。なぜならバスの本数が極端に少ない!おそらく静岡蒸留所の方も路線バスの時間を考慮してツアー時間を設定されていると思います。路線バスで行かれる方は時間には余裕をもった行動をオススメします。
また、行きで下車する「奥の原上」のバス停は蒸留所の前にありますが、帰りで乗車する「上助」は蒸留所から徒歩20分程度の距離なので要注意です。さらに、16:15発のバスは「静岡駅前」まで直通ではなく途中「六番」というバス停で乗り換えとなるためこの点も要注意です。乗り換えが必要なことを知らず、私を含め他のツアー客の方みんなで迷子になりかけました(笑)。蒸留所の方には、帰りは途中乗り換えが必要な旨、注意喚起いただけるとありがたいです。
バスには1時間程度乗りますが、景色が楽しめ飽きないです。静岡の中心地から出発し蒸留所に向かうにつれてだんだんと山道に入っていき、お茶畑や清らかな川の景色が美しい。バスが激しくアップダウンする道路もあり、プチアトラクション体験もできます(笑)。
蒸留所見学ツアー
蒸留所に到着したら、テイスティングルームの方に案内され受付を済ませます。一般客はこちらで料金1,100円を支払います。カスクオーナー様は無料のようです。ツアーの時間までテイスティングルームの展示物やお土産物を眺めたり、蒸留所の外観をぶらぶら眺めたりして過ごせます。地元産の檜で建てられたこの蒸留所は本当に素敵で癒されます。
時間になると中村社長のご挨拶からスタート。ようやく3年物まで原酒が育ってきたところ。もう少し量が確保できる2020年秋頃にはシングルモルト静岡をリリースできそうとのことでした。いよいよですね。うーん、本当に待ち遠しい!
ここからスタッフの方にバトンタッチされ、製造工程を解説付きで順に見学しました。製造装置は間近で見ることができ、細かいところまで存分に確認ができます。写真撮影もOKで、SNSでどんどんシェアしてくださいとのことでした。見学客フレンドリーな静岡蒸留所さんのおもてなしに感動、ますますファンになりました。
静岡蒸留所のこだわり
杉の発酵槽
酵母の働きにより大麦麦芽の糖分からアルコールを造り出す工程が発酵である。ここで使用される桶のような容器のことを発酵槽(ウォッシュバック)という。静岡蒸留所ではこの発酵槽に杉材を使用しており、これは世界初となる試みである。杉材の他に米松(オレゴンパイン)製の発酵槽も備えている。杉と米松では乳酸菌の量が異なるとの説明でした。
モルトウイスキーの発酵工程としては、アルコール造りだけでなく、香味成分の造り込みがとても重要な目的となる。乳酸菌は発酵後期に活躍し香味成分に非常に寄与するとされる。発酵槽の違いでどのような味わいの原酒が出てくるのか興味は尽きないですねー。
ちなみにこの杉材は中村社長が桶屋さんと一緒に山に入って実際に選定されたそうです。導入して年月が経っているため、当初ほど杉の香りはしなくなってきているとのことでした。
薪直火焚き蒸留器
蒸留器のラインナップは初留2基、再留1基の構成。初留の1つは軽井沢蒸留所から移設されたもの。そしてもう1つがここで紹介したい世界唯一となる薪直火焚きの蒸留釜!!!基本フォーサイス社製なのだが、釜の部分は国内メーカーが作製。フォーサイス社では薪直火はやったことないためお断りされたとのこと。なるほど、それだけ新しい挑戦といったところなのだろう。
直火焚きは熱源を直接釜に加える方式のこと。約1000℃もの熱によるダイナミックな熱変化が生じ力強い酒質となる傾向がある。熱効率が悪いため、直火焚きをやるところは少なくなっている。直火焚きの熱源として古くは石炭、近年ではガスの使用が一般的であるが、静岡蒸留所ではここに薪を使用するという斬新な発想!地元産の森林にこだわりがあるがゆえの発想なのだろうか。温度調整が難しそうだが、そのアナログ的な調整技術を極め独自の酒質を造り込まれるのであろうと予想されます。
燃料となる薪
天窓付き熟成庫
見学ツアーでは第二熟成庫を見せていただいた。5~6段のラック式。注目すべきは天窓を備えていること。これは太陽光を取り入れて熟成を速める試みとの説明。熟成には寒暖差が重要とされ、樽内外の気圧差で酸素を取り込んだり、不快な香り成分の蒸発により味わいが変化し磨かれていく。この作用を樽が呼吸をするとも言ったりするが、この呼吸を少しでも加速させる工夫なのだろう。
ウイスキーは、ウイスキーとして製品化できるのが何年も先のことになる。スコッチでは法律で最低3年熟成が必要、また標準的な売れ筋品としては10~12年熟成ものが一般的であるのが現状。ビジネス視点で考えると、少しでも早く資金回収したいはずなので短期間で仕上げる試みは経営にとって重要な戦略なのだろうと思います。
もしくは、首を長くして待っている私たち消費者に”シングルモルト静岡”を早く届けたいとのお心遣いなのかもしれませんね。
静岡蒸留所のこだわり
①世界唯一の杉の発酵槽
–乳酸菌の量を変える
②世界唯一の薪直火焚き蒸留器
–温度調整による独自の造り(個人的見解)
③天窓付きの熟成庫
–熟成を速める試み
その他
カットポイント体験
蒸留工程の説明のところで、カットポイントを体験させていただきました。
2回目の蒸留では時間ごとに生成される蒸留液のうち、初めと終わりの部分の好ましくない香味成分をカットし、真ん中のおいしい部分だけを抽出します(これをミドルカットと言います)。モルトウイスキーはこれほどまでに香味成分にこだわった贅沢な造りをするお酒なんですね。
再留で時間経過ごとに採取したサンプルを6~7種類程度見せてもらい、さて本日のカットポイントはどこでしょうか?という問いかけがありました。
外観的には一番最初のサンプルはちょっと薄めのカルピスくらいの濁りがあり、以降は透明かな。香りとしては3番目以降からフルーティさが出てきてかなり良い感じに思えたが、実際のカットは5番目のサンプル以降とのことでした(少しうろ覚えです…)。カット幅狭めでかなり贅沢な造りなのでしょうか、ド素人の感想ですが思いました。貴重な体験をさせていただきました。
テイスティング
見学ツアーの後は帰りのバスの時間までテイスティングをしました。
絶対飲みたかったピーテッド麦芽の薪直火蒸留のカスクサンプル!
テイスティングノート
・香り:ローストしたピーナッツ、木、塩、スモーキー
・味:麦、塩、日本酒の風味も
静岡蒸留所サンプル一覧
その他にもいくつかいただきましたが、ブラックアダーの製品は初めて飲みました。
特にロウカスクシリーズは凄いですね!ほとんどフィルターをかけずにあるがままの姿でボトリングするというポリシー。噂で聞いていた通り、黒い墨のようなものまで含まれており、樽ごと味わっているような感覚になります(笑)。マニア向けの仕様で大満足でした。
静岡蒸留所訪問の記事はここまでとなります。
こだわりがたくさん詰まった本当に本当にオススメの蒸留所ですよ!ぜひ足を運んでみてください。
記事をご覧いただきありがとうございました。
最後に見学ツアーの細かいメモを記載しておきます。
・ようやく3年物の原酒が育ったところ。
・まだ量が少ないのでシングルモルト静岡のリリースは2020秋となる。
・杉の発酵槽
- オレゴンパインとは乳酸菌の量が異なる。
- 中村社長が桶屋さんと一緒に山に入って木材の選定を行った。
- 12基まで置けるスペースがある。
- 当初ほど杉の匂いはしなくなった。
・サイロ(オレンジ色の設備)
- 麦芽を17トンまで格納できる。
・ハスク、グリッツ、フラワーの比は3:6:1。
- 効率面で決めているそう。教科書的には2:7:1。
- フラワーのことをパウダーと説明。
・静岡では2番麦汁までしかとらない。贅沢な造りと言える。
・酵母はマウリ社のピナクル、ドライイースト。
- 当初はダイレクトピッチと言ってそのまま使っていた。
- 今はぬるま湯で溶いている。
・モロミのpHは3.5。
・モロミの酸っぱさが香りを豊かにする。
・薪直火焚き初留の釜の部分はフォーサイス社ではない。
・フォーサイスではやったことないからとお断り。
・国内メーカーにやってもらった(メーカー名聞きそびれた)。
・蒸留後のアルコール度数は初留で30%、再留で70%。
・ハイブリッド式蒸留器、単式も連続もできる。
・再留で時間経過ごとに採取したサンプルを6~7種類程度見せてもらった。
・一番最初のサンプルはちょっと薄めのカルピスくらいの濁りがあった、以降は透明。
・3番目以降からかなり良い感じに思えたが、実際のカットは5番目のサンプル以降。
・仕込み水は地下水を使用。
・樽はバーボンバレル、スコットランドからもってくる。
・オクタブはバーボンバレルをばらしてリサイズする。
・熟成庫の天窓が静岡の特徴。
・太陽光を取り入れて熟成を早める試み、寒暖差が重要。
・見学したのは第二熟成庫。